「ライトスタッフ」


ライトスタッフ [DVD]


冷戦時代、ソ連と激しく争っていたアメリカの宇宙開発計画「マーキュリー計画」に従事した7人のパイロットたちや、昔ながらのヒコーキ野郎気質な空軍テストパイロットであるサム・シェパードの姿を主軸に、NASAや政府の思惑とか大騒ぎするマスコミとか奥さんや家庭の事とか世論とか色んな事がぐしゃぐしゃになって翻弄されるそれぞれの人間の何とかみたいなそういう映画。当時中一だったけどロードショウ公開された83年に見てさっぱり意味が判らないながらも印象深かった。今回、CSで放送されていたのをたまたま久々に観たら、何か妙に焦点の定まりきらない変な印象を持ったが、でもしっかり充分に作りこまれた立派な映画だと思う。見応えは充分にある。長いが。


仕事における「一流」の意味内容は、技術の変遷や時代の変化に影響されて変わっていく。仕事の質を常に「一流」のクオリティに保ちたければ、上書きされる要件を機敏に察知して柔軟に内容変更を試みる事が必要だろうし、同時にその仕事と自分との関係も絶えず調整を繰り返して、その仕事に自分がいつでも最適な関わり方ができるよう務めるべきだろう。…二十世紀前半の航空技術および後半以降の宇宙開発技術は、近代以降の人類の技術発展を象徴するテクノロジーのひとつだろうが、そのような技術の上で生のスタイルを固める仕業を「仕事」にするとはどういう事かを、この映画は多様な側面から見せてくれる。…とりあえず、もう西部劇はおしまい。ああカーボーイは死滅した、旧きよき時代は終わったなあ、というような話ではあるのだが、長尺なだけに登場人物たちのキャラクターや盛り込まれるエピソードはそれぞれ面白い。


サム・シェパードはやたらとカッコよくて、この映画におけるカーボーイ的美学とか個人のロマンを体体現する存在としての理想的な飛行機乗りである。この映画ではサムシェパードの表情を見てると何か妙に安心する。ちゃんとカッコつけてくれているその佇まい自体に感動させられる。最初に宇宙に行くスコット・グレンは登場のイメージから計画が始まるにつれて少しずつ表情や性格が変わっていく感じが本当に素晴らしい。フレッド・ウォードは任務に失敗して栄光の裏側で辛酸を舐めさせられる悲劇的な役割であり奥さん共々気の毒であるが、夫婦揃ってマスコミの前で笑顔を作る瞬間は泣ける。品行方正で地位も内実も伴っている理想的なアメリカ人海軍エリートのエド・ハリスは、奥さんが言語障害をもっておりそれゆえ夫婦としての一層強い絆で結ばれているという感じはあまりにもベタでどうかと思うものの、幾つかのやり取りにはやはり感動させられてしまうしトラブルに見舞われるが無事に帰還できて本当に良かったと思わされる。デニスクエイドはいつもだらしなくヘラヘラ笑っていて陽気で、でも割と皮肉屋でシニカルな側面もあり、しかし何か言いたそうなときもつい冗談で誤魔化してしまうのだが、でもまあ、そんなヤツが映画の最期に宇宙に行けて本当に良かったと思わされる。


しかしアメリカの何とか州の雰囲気とか、背広にカーボーイハットをかぶったオッサンとかがいっぱいでてくるだけで、よく知らないけど何かウザいなあと思ってしまう。アメリカって嫌な国だなあとも思うのだが。あとやはり冷戦が終わった今の時代に観ると、やや古びた感は否めないかもしれない。共産主義者に先を越されるな!とか言って頑張ってる東西の技術競争自体が何か牧歌的にも見えるというか、楽しいスポーツのようでもある。