蕎麦


蕎麦屋へ入り、温かい蕎麦を注文する。やがて運ばれてきた、せともののうつわを持上げ、たちのぼる湯気を顔で受けつつ、箸ですくって、一口、二口とすする。


驚いたのが、予想を遥かに超えた、濃厚なつゆの味だ。口の中全体に、鰹出汁の香りが強烈に広がる。鰹節の主張がものすごい。どんだけ濃い出汁とってるんだ?と思うが、とりあえず、これはこれで、薫り高く旨いようにも思え、そのままの勢いで食べ続ける。


熱い蕎麦とつゆが喉を通って体内に運ばれていくうちに、身体が芯から暖められ、体温があがり、額には薄っすらと汗すら浮かび、熱がエネルギーとなって体力を快復させていくのを感じる。ああ旨いなあ。おかげで元気になった。おなかいっぱいで幸せです。そう感じながら、濃厚な鰹出汁のつゆまですべて飲み干して、ふーっとため息をついて、まだ熱の残る空の器を置き、箸も置いた。


会計して、店を出てしばらくしてからも、その濃厚さが忘れがたい。というか、まだしっかりとした後味が口内に残っている。ムチャクチャ香りの強いつゆだったなーと思いながら歩く。…歩いているうちに、はっと気づいた。そうか。あれは出汁がキツイんじゃないや。あれは、みりんが、大量に入ってるんだ。だから濃厚なんだよ。というか、つゆが少し、手についたときの、あの粘りというか、ほんの少しなのに異様な匂いの強さというか、あれは、まさに、みりんだろ。っていうか、料理酒とかも大量に入ってるのかもしれないぞ!


歩きながら、そこまで考えて、またふと違う事実に気づいた。あたりをきょろきょろ見回してみて、そのあと虚空をみて、ああ確かだ、と思った。…僕は軽く酔っ払っていた。