カンバセイション・ピース」で、森中たちと花火大会の話が終わった後、夏休みに入って、最初に奈緒子姉が来て、奈緒子姉はあらわれたと同時に、というか小説で最初に出てきたときには、その場所に既にあらわれていて、もう浩介と高志を間違えたりするエピソードになっていたりするので、あらわれた瞬間というものがない。その後、英樹兄と幸子姉も来るけど、その二人はわりと登場シーンが印象的だ。何しろ二人ともかなり奇抜な格好をしているから。


この親戚の兄さん姉さんがやってくる一連のシーンを僕はほぼ完全に忘れていたので、ここは読んでいてものすごく面白かった。噛み合ってるんだか合ってないんだかわからないような会話がずーっと続き、その内容だけで面白いのだが、この話が続いているときというのは、英樹兄と幸子姉は玄関の上がり口に荷物を置いたまま、居間と縁側を歩き回っているのだ。しかも奈緒子姉も、一緒になって歩いていて、それを浩介と私(高志)が座ってみている(聞いている)のだ。ふすまで仕切られた日本家屋的空間の中を、奈緒子姉に、黒スーツと派手なワンピースに大サングラスの英樹兄と幸子姉の合計3人がうろうろと徘徊しながら喋りあっている。真夏の、炎天下でもえるような深緑を背景にして、薄暗い日本家屋の縁側に三人の姿が、とくに幸子姉のかぶっている巨大なつばの帽子のかたちなどすごく印象的に、真夏の庭を背景にして、それぞれ完全に黒い逆光になっている3人の姿を、家の奥まったところに座ってみている。そういうシーンを想像する。襖が取り払われているのだとしたら、奈緒子姉は敷居を踏んづけるようにして、部屋と部屋の境目の柱にもたれかかったりして、そこからまた次の柱までふらふらと歩きながら、ひたすらお喋りが止まらない。


この後、皆で多摩霊園にお墓参りに行く。同じテンションのまま、ひたすら会話は続く。やがてアスファルトから陽炎がゆらゆら立ちのぼるような暑さの中、お墓に着いた。


ちなみに、うちら夫婦はお墓の事について話す事もあるのだが、少なくとも僕はお墓というものに、まったく興味がもてない。本当に「死んだらどこだって同じことだ」と思っているようだ。骨なんか別に普通に捨てても良いとさえ思う。今はだが。