Play with fire


辛いものが好きで、唐辛子のペーストとかタバスコとかハバネロソースとかを各種用意して、食物にこれでもかとばかりに降りかけるのである。小さじですくって、具材になすりつけて、そのままぐしゃぐしゃにかき混ぜて全体に行き渡らせる。辛さとは、食材に「乗せる」ものじゃない。辛くしたいなら、辛さを加えたいなら可能な限り、食材に辛さをしみわたらせる必要があると思っている。食物を口にして、それが口内で辛く感じられるのは当たり前。そうなる前に、食物よ。まずお前が充分に、辛い物質へと変容しなければならない。お前は、お前自身として、辛さにもがき苦しんで、まったく別の何かに生まれ変わったのち、改めてわたしの口内において咀嚼されるべきなのだ。それがお前に与えられた役割なんだよ。さあしっかりと唐辛子のエキスを吸い込むんだよ。今日たった今この時間をもって、お前はこの世界に唐辛子という物質があるということを知るんだ。その力を受け入れるんだよ。その破壊力をまざまざと感じながら、私の胃の腑に納まって消化されるがいい。僕はそう語りかけながら、皿や食器や両手の指先すべてを真っ赤の染めつつ、執拗に具材に対して唐辛子の粒子を加え続けるのだ。最近は一度の食事で壜一本が空になってしまう事も珍しくない。自分でも異常な領域に足を踏み入れている事は理解している。しかし、やめられないとまらない。でも実際これまで、本当に満足できる辛さになど出会えたためしがない。脳天を突き抜けて天井まで届くような強烈な一発を求めて、ひたすら真っ赤なペーストをこねくりまわしてのべつまくなし塗りたくっているのに、嫌になるほど湿気た、ぼんやりと鈍く広がったまましょぼく消え去るような、何がしたいんだかさっぱりわからないような半端さにむしろ苛々が増すような、そういうケチ臭い詐欺のような辛さばかりにひたすらお付き合いしているのが実情だ。外食するととくに酷くて苛々させられる。激辛オプションでプラス200円とか抜かして、腑抜けた油漬けの皿を出してくる中華屋などに出くわすと店ごと燃やしてやろうかと思う。こんな湿気た店ガソリンでもかけねーとぶすぶす燻って煙いだけで燃やしても燃えねーよ。頼むからもっとしっかり仕事しろよ。味付けとか盛り付けとかどうでもいいんだよ。なあ疲れさせんなよ、やれる事だけでもやれよ、辛くなるようにってせめてひたすら念じろよ。やる気だけでも感じさせろよ。それ壜ごと全部ぶち込めよ。なあお願いだから一度くらい天国までぶっ飛ばしてくれよ。カネならいくらでも出すよ。だから頼むよマジで。完膚なきまでに叩きのめしてくれよ。そう空しく願うばかり。