皿の上


今日、猟師さんが店に持ってきてくれた、鹿のすごく新鮮な状態の内蔵がある、とのことでそれをオーダーした。白い皿の上、赤褐色というより赤黒い、こんもりとした塊だった。ハツと、レバーと、あとどこかとどこか、忘れたけど全五種類くらい。表面の様子が、まさに焼き上がった直後の感じ。非常にシンプルに、塩と胡椒だけでローストされたもの。脇にイタリアンパセリとオリーブオイルとハーブなど調合した複雑な香りと味わいのマスタードが添えてある。もし間違えると口の中を切るくらい切れ味の鋭いナイフを肉にあてると、濃い赤ワインのような液体が溢れ出す。まさに血のソースだ。白い皿の上に鮮やか過ぎて、思わずちょっと引いてしまうような色。熱の香ばしさと、血と肉だった。どこまでも原始的な営みだからこそ、ワインを添える。ワインを、がぶがぶと飲むのだ。皿の上の、さっきまで生きていたものへ。


どうやって、店まで運ばれてきたのだろうか?店の人に聞けばよかった。血まみれで、袋に入ってるのだろうか。箱などに入れられて、ドライアイスかなんかで冷やされた状態で、急いで納品されるのだろうか。だから、たぶんきっと、その数時間前とか十数時間前に、殺されたのだ。殺されて、捌かれた。皮を剥がれて、ナイフの切り込みが入って、湯気を上らせながら、内臓も肉も、手際よく部位ごとに切り分けられていったのか。


その少し前に、撃たれたのか。倒れて、地面に伏した。撃たれたとき、カッと目を見開いただろうか。焼けるようで、やられた!と思って、その場所が、今という時間が、取り返しの付かないようになったのを感じた。瞬時に身体の半分くらい、無くなったみたいだった。地面の方が近付いてきた。土が冷たい。土の匂い。子供の頃に嗅いだ匂いだ。色々とありましたけれども、今日、ついに殺されました。どうぞ食べるがいい。召し上がって下さい。あなたが私を食べているのがわかる。ここが、あなたの口の中ですか。やわらかい滑りと生暖かさに包まれているのがわかる。しだいにこまかくばらばらにされながら、あなたの歯が噛み、舌がうごめき、喉が飲み込もうとするのがわかる。こうして、いつまで感じていればいいのか。いつか、意識を失うかしら。眠りに落ちるようにして、私の、生きることが終わるかしら。