なぜか僕と妻が、あるご夫婦と一緒に見知らぬ部屋で寛いでいた。
食事が終わって、デザートとお茶を頂いて、そのあと、この部屋で雑談したりしながら過ごしているようだ。
でもこのご夫婦、よく見たらたまにいくレストランのシェフとマダムではないか。
たぶん僕たちが、いつものようにその店で食事して、他に客もおらず閉店時間も過ぎてしまったので、じゃあこの後は、こちらへどうぞということになって、店の裏手口から続いている彼らの居住スペースに案内されて、そこで寛がせてもらっているのだ。
それにしてもあんな雑居ビルの裏手からこれほど森閑とした居住地へつながっているとは意外だ。どういう土地の構造なのか。
僕と妻は、部屋の壁にもたれてぼんやりしていて、窓越しに秋の虫の鳴く声を聴いていた。ご夫婦は僕らのすぐ傍で、まるで子供のように二人並んでベッドに横たわって首だけこちらを向けている。我々は奥さんとはお互いに気兼ねなく話が弾むが、じつはご主人とはそうでもない、店でのご主人は始終厨房で仕事をしているのでそれほど話す機会もないから、というのもある。こういう機会なら色々と聞いてみたいこともありそうだが、そう思ってもいざとなると何の話題も浮かばないものだ。
そして部屋の奥にいらっしゃるのは、お二人のどちらかのお母さんだと思うのだが、このお母さんがすごくいい人で、さっきから色々と気を遣ってくれて、なんだか申し訳ない気持ちになる。
そのうち、外に車の音がして、誰か来たのかと思ったら、玄関に小学校時代の同級生Yがあらわれた。どうやら僕たちを送迎するために、わざわざ車で迎えに来てくれたらしい。
なんだか悪いね、すまないねと言って、ご馳走様でした、今日はありがとうございました、と、レストランのご夫婦にも挨拶する。また来ますね、と言って、二人が玄関まで見送ってくれているその家を後にする。
真夜中の暗闇と肌に触れる空気で、もう冬がそこまで来ているのだと思う。今日はひたすら人の世話になりっぱなしだな、などと言いながら車に乗り込む。