晴れ

秋の朝の晴れた空。素晴らしいとしか言いようのない天気。適当な場所にぼーっとつっ立って、絵画の前にいるみたいに、ただひたすら前方を鑑賞していたいような感じ。このままだと色も形も肌触りも匂いも暑さも寒さも味わいも、何もかも一緒くたになってしまうような、自分の身体が限りなく消えるに近いような状態になりうる。


電車に乗っていても日差しのもたらす幸福感が持続している。こういうときは何を読んでいても、内容がその感覚から侵食を受けてしまう。金子光晴「どくろ杯」を読み始めて、関東大震災直後の被災した身近な人たちが主人公を訪ねてきたときの下り。

 

親戚の古着商の番頭筋で、反物のせりをやっていた男は、両腕の手首から先を失って、訪ねてきた。大火による気温の変動でおこる突風に出あって、日暮里駅前の引込み線の線路を両手でつかんだまま、砂礫に眼もあけられずじっとつくばっていると、風に押された荷物列車が音もなく線路を辷ってきて手のうえを通ったのを、そのときは、なにかたいへんなことが起こったとおもっただけで、痛さも感じなかったとかたった。

 

この残虐で凄惨なシーンが、そうでありながらも、なぜか静謐で詩的なものにも感じてしまうのは、天候のせいでもあるが、この文章そのもののせいでもあるだろう。

 

音楽を聴きたくなるなあ!なにか、いい音楽ないかしら。Taylor EigstiがピアノでカバーしていたのでNick Drakeをはじめて知った(このカバー曲自体はさほど良いとは思わなかったが)、Nick Drakeを今まで知らなかったなんて恥ずかしいです。「Pink Moon」から順番に聴いていこうか、といった気分のところだ。