一過

朝、家を出たら空は気持ちよく晴れていたが、それよりもその下の景色全体が凄かった。見慣れた風景は見慣れたままのようでいて、そうでもなかった。家から駅までの道のりは比較的緑の多い道が続くが、どの木々も草花も植え込みも茂みも、一様に暴風に吹かれて煽られまくって、根元から引き剥がされそうな勢いで一晩中右へ左へ振り回されていたのだろうというのがまざまざと感じられるように、もはやぐったりと疲労をたたえて力なくうなだれていて、路上にはちぎれた葉や実や小枝などが散乱していて、あたかもいつも小奇麗にしてる女の子がトラブルで一昼夜酷い目にあって命からがら逃げてきた後の、全身、髪の毛から服装から手の先足先までぼろぼろになってぐったりしてる様を思い起こさせるようだった。平和な晴れた空とのコントラストがまた余計に効果的に昨夜の悲惨を照らし出してるような感じだった。木々と共に水に濡れた張り紙だの店の看板だの鉢植えやなんかも汚く剥がれてバタバタ倒れていて、そのうち小学校の柵周りを囲うけっこうでかい植樹の一本が、幹の真ん中から断面の裂け目も生々しく折れて倒れているのが見えた。こういう木の折れてるのを間近で見たのははじめてだった。しかしこの界隈全体が、かなり強引で乱暴な洗浄を受けたあとのようでもあり、これはこれで、ちょっと気持ちいいかもしれないな…などと思いながら駅に向かった。そこまでは良かった。今朝からのJR線は既にダイヤぼろぼろの状態で、朝の通勤で久々にえらく大変な思いをさせられた。正直予想外だった。ある程度予想も立ちそうな、ほんの少しのインシデントであっても、いきなり全体が大混乱になってしまうのは今回に限らないし、やっぱり東京って弱い、いざというときには、きっと想定をはるかに下回る勢いで弱いわと思った。