くされたまご


朝の電車はまだ空いている。いつもこうだといいのにね。日本近代短篇小説選 明治篇1の嵯峨の屋おむろ「くされたまご」、明治二十二年。なぜこういうのが、現代の街の景色や行きかう女性を見る視点とあまり変わらないものに感じられるのか、とても不思議だ。主人公の宗教家(キリスト教教師?)女性の、清楚ではっとするような美しさの印象で登場しながら、年下の少年をやや誘惑気味に誘い、知り合いと一緒にダラダラと自堕落な遊びに耽る、スキャンダラスな実態を暴く社会告発的な側面をもつ小説らしいが、百何十年も前に交わされた登場人物たちの様子や会話から立ち上がってくる感触が、日本近代小説の、まだ始まったばかりの手探りの感じも相まってとても生々しい。