自宅から20分ほど歩いたところにある公園には柵で囲われた梅園があって、冬の一時期だけ開錠されてなかを見物できる。黒い枝のあちこちから芽吹いた花弁に、無数の蜂が忙しそうにまとわりついていて、枝をかすかに揺るがせて、それで冷たい風にのった花の香りがかすかに漂うのを吸い込むと、鼻の奥から肺にまで冷気が入り込む。梅の色はかぎりなく白に近い。サギの羽の清潔な白さに似ている、混色なく単独で跳ぶような白だ。
スーパーで買い物して帰宅する。自宅で天ぷらをするには、それなりの覚悟が必要だ。後片付けも面倒くさいし食べ過ぎて油が重くて翌日に残るし、どうせ酒も大量に飲む。でも、たらの芽やらふきのとうやらが野菜売り場に並び始めると食べたくなってくる。子供の頃に、間違って口に入ってしまった雑草の苦味、黒く湿った土の味わいだ。