枝豆の季節

昨日はアジ(やや身の締まった値段高めなやつ)、今日は小さめのチダイ(安物)を、包丁でさばいて三枚におろした。包丁は僕の場合、経験を積めば積むほど、下手になっていく気がして仕方なく、かなり失望する。ただ少なくともアジはまだマシだったので昨日は刺身で食したけれども、チダイは切り取られて小骨を取って皮をはがした結果が、このみずぼらしい肉片だけしか成果に残らないのかと思うと、我が身がなさけなくなるような思いである。魚の鮮度にも起因するのかもしれないが、やはりどう考えてもこれは技術力不足でしょうね。でも鯛は見た目が悪くても捨てるところは少ない。アラを取っておけば後日の楽しみが増えるというものだ。それにしても、この数か月でいったい何皿ぶんもの、なめろうを作ったことか…。

昨日スーパーで見た秋刀魚は二尾で九八〇円。さすがに手を出す気になれない。もう一軒の店で見たら、一尾三九〇円。まあこんなものか…と思って二尾買い、今年の初ものをいただく。ただよく考えてみると三九〇円なら最初の店よりは安いけど、秋刀魚としてはやはり尋常じゃない値段には違いない。ずっとこんな値段が続くようなら、今年はひとまずこれで食べ納めでもかまわないかもしれぬ。
ちなみにここ最近、我々夫婦の主食は、ほぼ茹でた枝豆に占められていると言っても過言ではないだろう。もちろん何の変哲もない、おもに食事のはじまりで飲むビールに合わせた突き出しというかアミューズとしての、まったく平凡に供される一品ではあるのだが、しかしそれがじつに美味い。今年の枝豆がとくに美味しいのか、最近の自分らが変わらぬそれを今年に限って美味しく感じているのか、よくわからないけどとにかく美味い。豆の香りと塩の効き目だけのシンプルなさっぱり感が、あらためてすばらしい。但し枝豆というのは当然ながら豆類であって意外に食べ応えがあるというか、スーパーで売ってる一袋を茹でて夫婦二人で食べるだけでそれなりに満腹感をもたらすほどのボリュームはあるので、それでその日の夕食計画がくるってしまうことが多く、つまり枝豆を食べてから、その他少しの前菜が片付くと、あらかじめ準備しておいたメインというか〆の料理を食べきることができない、そこに至ることなく夕食が終了してしまうケースが多い。だから結果的に最近の主食が枝豆になっているということなのだが、まあ要するに昔のようにたくさん食べられなくなってきたという話に過ぎないのだが…。

昔、赤塚不二夫の「天才バカボン」の登場人物として、枝豆中毒のヤクザが出てきた記憶があるのだが、気のせいだろうか。最初は怖い雰囲気で登場して交番のおまわりさんを震え上がらせるも、枝豆依存の弱点を見破られ、禁断症状に苦しみながらおまわりさんの取り調べに応じる姿を、子供の頃に親戚の家のコミック本で読んで以来、枝豆にひそむ危険性、あの中毒性にはやはりある種の依存性物質含有の可能性をうたがうべきであると、いまだに心のどこかで思い込んでいるのかもしれない。

それでも季節はそろそろ枝豆も終わり。夜になって窓を少しだけ開けておくと、かなり冷たい風が室内に入ってくる。ちょっと肌寒いくらいだが、閉めたりまた開けたり、適度に調整していると快適だった。涼しさから寒さへの移行もあっという間か。