支え

電車が混んでるときとか、会社の休憩時間とか、お店とかで間の空いた時間を過ごすとか、そんなときは、本を鞄から取り出すよりもスマホで読む電子書籍のほうが、ぜんぜん都合が良いと感じるようになってしまった。あと寝る前に読むときの本も、やはり電子が便利だ。スマホ自ら光るので読書灯がいらないし、ページをめくるのも片手ですむし、本を支えるよりは疲れない。読書灯も枕元にあることはあるのだが、やや明る過ぎて、隣で眠ってる妻が目を覚ますかもしれずむやみに点けるのがややはばかられるのと、冬の室温だと本を持つ手や首や肩が冷えてつらいというのもある。

スマホ用スタンドと同じように、本一冊を目の前に固定して支えてくれて、適当な明るさの小さい読書灯まで付いていて、1アクションで簡単にページをめくれるような、ふつうの本がまるで電子書籍みたいな読み方を可能にしてくれる、そんな本専用スタンドがあったら便利だろうなと思ったりする。

あるいは、疑似電子書籍化システムとして、フラッドヘッドスキャナみたいな形状の箱に本を開いた状態で格納して、内部にはページめくり機能があって、僕がスマホで操作するとスキャナで撮影されたページが手元に送信され、次のページを指示すると次のページが送信される。もはや場所が寝室だろうが外出先だろうが、手に抱えられないほど重くてデカい本だろうが、どんな本でもスマホで読むことができると。

…なんとなく、持ってるCDをAppleMusicにインポートしてるときの感じを思い浮かべてしまう。けっこう空しいし、やっぱりCDはCD再生環境で聴いてる方がいいやと思うことも多いものだが、本もやはりそうかしら。

ニール・ヤングボブ・ディランが口元でブルース・ハープを固定するときのスタンドみたいに、文庫本を顔の前で固定する器具があればいいとも思う。満員電車ですこぶる便利に使えそう。でもページめくりが、やはりここでも問題になるか。それに、すぐ前にいる人の後頭部に本があたると、お客様同士のトラブルにつながりかねないので、なるべくご遠慮下さい、かもしれない。

仰向けになって寝る人の頭上に本を固定して、ページをめくってくれる装置は、ネットで調べるとわりに存在するようだ。

ノートPCを操作するときもそうだけど、なぜ「なるべく手に持ちたくない」「どこかで支えて固定したい」と思うのか。要するに、自分が寝そべったりラクな恰好を維持したいからそう思うのだ。ふつうに座って何か読んでるときには、べつにそうは思わないのだから。

いつかそのうち、スマホを持つのさえ嫌になってくるのだろうか。ものぐさが昂じて、やがてAR(拡張現実)的なインターフェイスを求めるようになる。十年後くらいには、極端に小さくて薄い存在感のないガジェットを身体のどこかへはめ込むことになるだろうか。

そして将来においては、誰もがごろごろと寝そべって暮らすようになる。大抵のものを、手に取らなくても扱えるようになり、物事を感受する際の身体的な条件の垣根がぐっと下がる。現代の日本人の多くにとって正座や和式トイレの利用が困難になったように、やがて座位や立位の必要性も下がってくる。生活もファッションも建築もそのように少しずつ変化してくる。