電車の窓から外を見ている。高架を走る電車は、川を渡ったあと、街並みを見下ろす高さを駅へと向かって走る。密集する住宅の屋根が連なっている。低層のビルや、屋上のある家には端に梯子があったり物干し竿があったり、洗濯物が風に揺れているのも見える。屋上というものが、どのくらいあるのだろうと思って、それを意識して見てみると、ビルの上というのは、かならずしも屋上として人が立ち入れるようになってるわけではない。単に排気用か設備系の機械が並んでるだけだったり、資材が置かれているだけだったりする。駅に近づいて、建物の密集度が増してきて、どの建物も人間と食物のはなつ油と煙に燻されたみたいな色合いになってきて、ぎっしりと並び建つ一階から三階まで全部居酒屋が入ってるビルの屋上は、一応は屋上として利用できるみたいだけど、ふだん人が出入りしてる雰囲気はなくて、モノが長年置かれていた下のカーペットがそこだけ色が劣化してないみたいに、ただ灰色の中間地帯のように残されているだけのようで、そもそも電車からそれが見えてしまうところに、ある種好ましくもあるようなわきの甘さを感じさせる。願わくばあれらの屋上のどれかに、一人でもいいから誰かがいるのが、電車のなかから見えたらいいのにと、覗き魔のような視線で外の風景を見ている。この覗き魔は人の暮らす住居の部屋の中を見たいわけではなくて、周囲の景色構成から切り出されたかのような灰色の屋上の中間地帯に立っている、何をしたいのかよくわからない人物の様子をのぞきたいと思っている。