伝達

寒い日に、冷たい酒や冷たい食物が美味しいというのはある。ニューヨークなら真冬の生牡蠣と冷えた白ワインが格別だと聞いたことがある。温めようとはせずに、外側を取り込もうとする。それにもかかわらずアルコールが路面から立ち昇る蒸気のように奥底からほのかな暖気を伝えてくる。たしかにそういう真冬はある。ビルを出て、全身がそれこそ貝のようにぎゅっと縮こまるほど寒い夜なのに、喉が乾いているようなとき、もし今ビールを飲んだら心底冷え切って身体が固まってしまうかもしれないけど、口内と喉だけは歓喜に震えるだろうと思われるようなコンディション、雪山で遭難して極限状況下で喉だけが灼熱の砂漠のように乾くこともあるのだろう、そういう想像を広げつつ水分が沁み通っていくのを思い浮かべる。アルコールは試験薬剤のように、物事も心も身体も熱伝達の法則にしたがって結果を返す。