ランチ

休暇だが、1人なので、久々に昼からフレンチだ!となって、予約を入れて着替えておもてにでたら驚くほどの真冬のような寒さ。そして雨。暗く重々しい色の空。風もあってときおり傘を持っていかれそうになりつつ駅まで歩く。こんな絵に描いたような悪天候の日にわざわざ外に大げさな飯を食いに、しかも1人でって、阿呆ではないかと思うが、行く先や興味の矛先は時代によって違ったとしても、僕の場合だいたい何十年も前から今にいたるまで似たような行動パターンというか、いざ思い立ったときが、ちょうどコンディション最悪なときに重なるのはしょっちゅうである。予約の時間に到着して着席し、よく冷えたグラスのシャンパンからはじめたものの全身が芯から冷え切っており、かじかんだ指先のせいで持ったグラスを傾けて口元に運ぶのにやや難儀するほどだったが、それでもしだいに、氷の内側に熱さが溶け出すかのように、しだいにほぐれ、身体がほどけていく。いつ来てもメニューにそれほど変わりばえのない店だが、しかしやはり美味しい。ワインはどれも安くはないけどちゃんとしたものばかりグラスで揃ってるし、料理は頑固なまでにクラシカルで、やっぱりこういうきちんとしたことをずっと続けているというのがすごいと思う。シェフはシャイでけっこう口下手な人の印象だが、僕もあまり喋るのは得意ではないし感想をご本人に言うなんて恐れ多いと感じてしまうところもあり、いつもながら愛想笑で誤魔化すみたいな甚だ無礼な態度で逃げるように店を後にするのだが、そんな我が後ろ姿を丁寧にいつまでもお見送りいただいてまことに恐縮の限りなのだが。まあ本当はそんな固く考えずにざっくばらんにお話したほうが良いのはレストランも美術展示のギャラリーなんかでも一緒で、作家は客の言葉をとても重要に思っているのはよくわかってるつもりではあるのだが…。