鰹・白胡椒

鰹の刺身とタマネギの薄切り、葱、茗荷、生姜。これだけで生きていけると思うほどで、こればかり食べている。昔からそうだったけど、近年その頻度が極度に高まっている。数日連続同じものでもまったく問題ないと思うほど美味しい。何がこれほど美味しいのか、そう思う自分にもわからない。もともと好きだった、それはたしかにそう、しかしこれほど毎回食べても好きだとは何事か。それはおそらく、幼少時代の記憶にある。両親の実家では鰹の刺身があたりまえのように食卓にのぼっていて、皆が大量の鰹の切り身をがつがつと食べていたのだ。大皿をうずめるようにして、真っ赤な鰹の切り身が敷き詰められていて、食卓を囲う人たちがそれを、思い思いに箸で取り上げ、ごはん茶碗に乗せ、記憶によればそこにタマネギ薄切りだのネギだのも加え、大ぶりの茶碗の上にそれらが乗った状態から、熱いヤカンを傾けて茶を注ぐ。三重県の食に詳しい人ならご存じかもしれぬが、いわゆる鰹茶漬け、紀伊半島の名産というか、よくあるわかりやすい観光メニューで、これぞいわばその元祖というか原型ということになるのだが、ここ最近の鰹茶漬けと自分の幼少時に記憶する同品とで何が違うかというと、まず白胡椒を使うか否か。おそらく今どきの鰹茶漬けに、白胡椒を振りかけるなどという工程はないはずだ。白胡椒が刺身に合うのか?誰もがそう思うだろう。ならばだまされたと思って試してほしい。鰹の刺身+白胡椒+タマネギ+醤油+(Optional 葱、生姜など)。これはほんとうに素晴らしいい。というか、そのことをふと思い出して、それからはことあるごとに鰹に白胡椒をふりかける日々が続いている。ほんとうにこれを思いついた人はえらいと思う。というかチープでお手軽な、いかにも非歴史的なアイデア。僕はお茶漬けはあまり食べないけど刺身のスパイスとしてももちろん美味しい。