煮る

鍋に火をかけて、ときどき状態を見て焦げ付かないように気を付けながら、一時間近く煮る。その間、鍋の傍で、椅子に坐ってビールを飲みながら本を読んでいるのは、楽しいことではないかと思いきや意外とそうでもなくて、じっさいそうやって本に目を落としていても、鍋の様子が思った以上に気になるもので、しばしば本を置いて進捗を確認したくなる。。あと二十分、あと十分と残り時間をカウントしつつ、今この煮加減が、おおむねほど良い具合なのかどうか、時間を切り上げた方が良いのかあるいは延長した方が良いのか、考えることが次々と浮かんできて、本の世界に入り切るのがむずかしい。むしろ鍋の中身を煮詰めていく目的に、しっかりと心を没入させてしまう方が容易なほどだ。本は栞を挟み忘れたまま閉じてしまったし、グラスに注いだビールなんてあっというまに飲みほしてしまったし、飲んでたことすらおぼえてない。