イギリス風

ヴァージニア・ウルフの「3ギニー」を少し読んでいて、ウルフの文体と、チャンドラー(フィリップ・マーロウ)の文体が、意外と似てるじゃないかと思った。

「どうすればわれわれは戦争を阻止できるとお考えですか?」その質問に、ウルフはいきなり回答することなく(その質問が書かれた手紙を三年間も放置したのち)、その質問の背景、質問者の立場を想像し、そこからいくつもの仮説を取り出す。

性別の違いと、社会・制度の仕組みの現状、性別によって異なる教育と質と量、それらを前提とすることによって検討対象から外れてきた数々のこと、それら一つ一つを丹念に検討しながら、手紙の相手に語りかける。そのような質問が可能だとあなたが考え得る根拠やそれを可能にした背景とは何か?男性と女性という立場の違いをもとに、そこにどのような回答が期待されていて、何が期待されてないのか?相手に話しかける口調を保ちながらそれらを丁寧に分析し、終始冷静に物事を解きほぐしていく手つきがクールで、私立探偵のようなハードボイルドっぽさを感じたのだ。

その理屈っぽさというか、諧謔味というか、もし両者に共通するものがあるとしたら、それはイギリス出身のウルフともに、チャンドラーの出自(シカゴに生まれながら幼少時、母方の家系の支援のもとでロンドンにて教育を受けたこと)にもあるだろうか。いわばこれこそがイギリス的テイスト…ということにもなるだろうか。