若者

酒を飲んで泥酔している、馬鹿でだらしない、二人の若者が、奥のテーブルにいた。
店を出てすぐの階段の途中で、一人が派手に転倒した。
すぐに起き上がって、呻きながら席に戻った。
大量の出血痕が残されていて、血がぽたぽたと汚らしく、階段から店の入り口にかけてまき散らしたように落ちていた。
店内は薄暗くてよく見えないが、もしかするとあの片足は、膝から下、ズボンの裾から靴下、スニーカーの全部が、血で一色に染まっているのではないか。
手やシャツにも所々汚く飛沫が飛び散っていて、それらを乱暴に拭いた紙があたりにちらばっていて、あのテーブルにだけは、誰も近寄りたくない。
それでもあの、何かが倒れて液体がこぼれたみたいに黒光りして濡れてる彼らの足元の床は、もしかして血ではないか。
今もゆっくりと血だまりが広がってるのじゃないか。
あの男は、相手と向かい合って平然とした顔で酒の続きを飲んでいる。心なしか顔色が白っぽく、無表情になったようにも見える。
失血しても平気なのか。もしかして、戦争から帰ってきた二人なのか。
あの程度の出血なら、治療は後回しでも構わないという判断なのか。
はじめて来店した、少なくとも近所の客ではなくて、店員の態度もよそよそしい。店全体の雰囲気というか、店の呼吸が、いつもと違う気がする。
それに、はじめからかすかに気付いていたけど、あまり嗅いだことのない新鮮な、外国から届いた荷物を思い出させるような特殊な匂いが、あのテーブルの傍から立ち昇っている。