割り箸の袋

安居酒屋で、若者たちの飲み会が盛り上がっている。必要以上に大声を張り上げて、大げさに呼応し合って、怒号と叫びと爆笑が重なって、みんなで必死になって、楽しさという名の確からしさ、満足にいたれる、納得できる手ごたえに辿り着くために、一人一人が最大限の努力をもって、周りを見回し、反応を返し、その場の役割を演じ切ろうとしている。

集まった者のなかで、演技がもっとも達者で、声がよく通り、もっとも目立ち、その場全体を引っ張って、進むべき方向を指し示しているあの彼が、その宴会の主幹らしい。

そして主幹の進もうとする方向性を機敏に感じ取り、よく理解し、先読みをし、進行先をあらかじめ耕し、全体へ奉仕する意志をもつ幾人かが、その会の実働役である。

そのような運営方針に、ひとまずの笑顔をもって賛同を示しつつ、与えられたその場をそれなりに楽しもうとしているその他の者らが、宴会の一般参加者である。

その一方で場の盛り上がりからあからさまに背を向けて、少数で固まって彼らだけで話を交わすことで、非服従の態度を示す一部の者ら反体制派ももちろんいる。

そして宴に同調もできず反体制派に与することもできず、固まったような薄笑いを浮かべて、背中を丸めて、じっとうつむいて、手元でちまちまと割り箸の入っていた袋の紙を細かく折りたたんで、やけに神経質な形状をもつ紙の箸置きをいくつも作って、ひたすらその場の時間をやり過ごしている女が、あれがもしかすると、たぶんその数年後に、私の妻になる女性かもしれない。