個人

保坂和志「小説的思考塾vol.10」を配信で聞きながら…そういえば、昔の定期券でのキセルってあったなあ…と思った。まだ切符も定期券も磁気カードですらなくてただの紙だったので、入退場記録が残るわけでもなく、改札での切符チェックが駅員の目視だけだった時代。定期券を駅員の目の前にかざすだけなので、切符の最低料金で入場して、電車に乗って、定期券範囲内の駅で降りれば、道中どんな行き方だろうが駅を出られてしまう。そういうことをやってた人は、たぶんたくさんいたはずで、鉄道側でそれを取り締まるための対策ができるわけでもない、そんな時代だった。

小説は書き始めてから書き終わるまでの間に、書き手が変化する。作家とは形而上学的な思考を終始する存在に思われがちで、その立場すなわち時間の外にいながら作品を作るとも言えるけど、それと同時に、どこまでも個人的なの過去の経験と感動を根拠にはじまるものでもある、という話。「私」と「観念」を本気で両立させる。この年齢になって、それは厳しい気もするけど、でもそれを意識しないことには、このまま生きてはいかれないぞと。