緋文字

ザ・シネマメンバースで、ヴィム・ヴェンダース「緋文字」(1972年)を観る。

まだ、ヴェンダースが自らの手ごたえを掴む手前なのだろうと思いながらも、その確かな手ごたえの、ほんの直前にまで来ているかのような感触が、そこかしこに感じられる気がして、なかなか良かった。

本作に出演したリュディガー・フォーグラーとイェラ・ロットレンダーとに、いい感じの相性を見出したヴェンダースが「都会のアリス」で二人を主演に起用した話は有名だが、僕としては「まわり道」できわめて印象的だったハンス・クリスチャン・ブレヒの存在感が、本作ですでに盤石であることに驚かされた。このおっさんの、ほとんど顔芸と言いたいほどの、目線や口元など表情一発だけで演技を決めてしまう感じはすごいと思うし、でもつまり顔だけじゃないか、とも思うのだが、いずれにせよこの時点で、それらの俳優たちを配置させて、何かが漏れ出し漂いだすかのように、適当な場所をふらふら彷徨わせてしまったら…と、すでに未来に制作されるであろう「まわり道」の、粗いイメージスケッチがなんとなく可能なところにまで、その作り手の頭の中に萌芽しはじめているのではないかとさえ思う。

海に面した崖っぷちの、いかにも「一時滞在者」たちがたまたまそこに築いたかのような集落が、広がっているというよりは点々と貼りついているかのようであるのも同監督の作品のどこかで見たような景色だし、同時に西部劇の匂いも色濃くただよう。

西部劇に出てくるみたいなのその街を逃れて、彼女と娘は浜辺へと急ぎ、ボートに乗り込んで最後にその村を脱出するだろう。