勘違い

小説に書かれたことを、勝手に勘違いして、その意味内容とは別の意味にとらえて、そのままおぼえていたとしたら、それはそれで、とても幸福なことで、読んだ翌日すぐに忘れてしまうよりは、間違って覚えていた方が、よほど良いことだ。いつかその箇所を読み直して、ああ勘違いしてた、これは別の意味だった、ぜんぜん間違っていた、と思うとき、それは過去の思い込みが、まったく無駄な間違いだったわけではなくて、更新された意味とそれまでの記憶の意味が混交する。間違っていた記憶は、それを間違えた理由というか、それをそのように読んだ自分なりの条件があったので、それを今、また別のやり方で読み直すことで、かつての条件と今とで、私にとってその箇所は、さらに深い奥行きを獲得することになる。

音楽の勘違いとか、絵の勘違いとか、そういうのはたびたびあることだが、そういうのはたびたびあって良くて、思い違い、誤解、思い込みは、それが生じること自体が、とてもありがたい。