煮込み

いくら自宅で時間をかけて作っても、ふつうの居酒屋に出てくる白モツ煮込みには、絶対にかなわない、どれほどがんばっても、あの美味しさにはかなわないと、これまで思ってきたのだけど、久々に地元の駅前の安っぽい店で注文した煮込みを口にして、あ、これなら自分で作ったほうがマシだ…、と思った。自分で作ったほうが、美味いとまでは言わないが、自分でなら、もっとどうにでもなるな、と。これはこれで、もちろんよくできていて、不満はないけど、今の自分が、これに思いを合わせ、これからもこの基準を目指す必要を、もはや感じないと思った。

ただ、こういうものは、フラットに比較して、こっちの方がとか何とか、言って判断する類のものではないし、だからこそこれまで、自分は、いくつかのお店の煮込みに、憧れにも似た強い幻想を抱いてこれたし、当初かけがえのない出会い体験が、かつてあったのだと思うけど、でもいつの間にかそんなハッピーアワーは終わっていたし、魔法はとっくに解けてた。あると思っていた絆がもうなかった。それを唐突に、今夜知って、今や自分は、かなしいくらい自由なのだと気づけた。