Amazon Primeでホン・サンス「イントロダクション」(2021年)を一年ぶりに再見。やはり素晴らしかった。どのような時間の経過、推移によって、これらのエピソードが繋がるのかを考えたくさせるが、それがどのように考えても微妙な違和感をともなっていて、どのような解釈を選ぶにせよ、主人公シン・ソクホの、寄る辺なき心の揺らぎ、恋人や女とだらしなく遊んでいたい怠惰な気分とか、庇護者や父権的なものへの反発や逃避の気分が、冬の厳しい寒さのなかに、皮膚感覚で浮かび上がってくるのを感じないわけにはゆかず、ただそれだけが後味として残されるだけのようで、とても味わい深い。
一時間ちょっとしかない映画なのに、観終わった時点で、最初の鍼医の父親の下りなどほぼ忘れてしまっている。父親の(やはり神様に祈ってる)内面の悩みというか思いは、作品内にはまるで説明されず、その後のベテラン俳優のおっさんの「激昂」によって、冒頭の記憶もろとも吹き飛んでしまうのだった…。
キム・ミニの態度とか、ベテラン俳優の態度とか、けっこう「目上の者」対「若者」であり、とくにシン・ソクホの彼女の姿が、唐突に浜辺にあらわれて、彼女が今や難病と闘っている身であることを知った彼が、彼女の肩を抱いて歩いていく場面など、何とも絶妙なエピソードの配置の仕方なのだけど、しかし終盤近くにあらわれる超ロングショットの、母親らしき人物のぼんやりとした姿の、何とも言えない不気味さがもっとも印象的か。もちろん冬の海へ身体を晒すシン・ソクホと、彼をひたすら寒さから守ろうとする友人の献身的なまでに優しい態度も。