並ぶ

駅から免許試験場までの道。青いワンピースの女性が数メートル先を歩いている。建物入口に近づくと、ぎょっとするほど長い行列が出来ていて、案内係が大声で人を案内している。何度も蛇行する行列の最後尾に女性が並ぶ。かんべんしてくれうんざりだよとでも言いたげな女性の背後に僕も並ぶ。

約三十分かけて申請手続きして、さらに三十分かけて申請料金を支払い、さらに一時間半くらいかけて視力検査だの写真撮影だの講習だのを受ける。青いワンピースの女性の後を追いかけるようにして、案内されるがままそれらを片付けていく。列は場所によって複数にもなり、ときには僕が先行しそうにもなるが、気づくとやはり青いワンピースの女性が一足先に進んでいる。

並ぶというのは人を静かにさせるものだ。皆内心ではイラついてるけど黙って立ってるしかない。そのことを受け入れてるわけではないけど、結果的には石のように皆押し黙るばかり。こうして不気味なほどの沈黙集団ができあがる。

運転免許試験場は警視庁管轄である。数年に一度こういう場所に呼ばれて並ぶのは、これはきっと並ばせるのが目的であって、指示されて言われた通りしたそのご褒美をもらいに来るようなものだなと思う。

三時間近くかけて、ようやく免許証の準備完了が案内され、するとまたたちまちのうちに受付に行列が出来る。こちらはもう辟易して、しばらく座ってその列を眺めていた。青いワンピースの女性は早々に列に並び、やがて免許証を受け取ったようで、足早に立ち去ろうとする姿が人影の向こうに見えた。はじめから最後までずっとその背後を追いかけて、僕はついにその女性の顔を見なかった。