スリープ

眠りに落ちそうなはずだった、すでに眠っていたのかもしれない。でも落ちきれずに、意識が浮上してきた、また夜の寝室に戻ってきてしまった、そのことに気づいた。横になった身体の諸感覚が戻ってくると同時に、自分の心臓の鼓動が、すこし早く動悸していることに気付いた。心臓の動き以外の身体機能のほとんどが、まだ睡眠時のスタンバイモードに切り替わったままだったので、落ちきらなかった意識が鼓動だけを強く意識している感じだった。眠ろうとする身体のそのとき専用のモードに入っていたことがわかった。予想外な展開で覚醒したので、軽く目が回ってるような感覚をおぼえた。横になったまま、地面が揺らいだように感じられて、もしかしたら地震ではないかと思って、「地震?」と、つい口にした。それを聞いた隣の妻が目を覚まして「え?揺れてないでしょ?」と言う。そう言われたら、そうか。ふたたび目を瞑って、眠りの方向へ向かおうとした。いつしか意識が遠のいて、でもまたしばらくすると、やはり意識だけがスタンバイせずに、同じように戻ってしまって、またさっきのように、諸感覚を待機中の身体に再接続されたのを感じた。結局その夜はそんなのを数回くりかえしていた。そういうことはたまにある。でも何度目かに、ようやく無事に落ちた。眠った。