テレビをつけたら「みんなのうた」が放送されていて、僕は棚の下をごそごそ探し物しながら、聴こえてくるその歌を聴いて、それがあまりにもあんまりな歌だったので、思わず妻に、まるで詐欺師の誘い文句みたいな歌だなと言った。世間知らずの初心な相手に、ササっと巧みに近づいてきて、甘く囁くようないかにもな声色で上手いこと囁いて、相手をうっとりとさせて信じ込ませて、果ては喰いものにしてしまう…そんな詐欺師の声を作って下さいとAIにオーダーして出力されたかのような、いかにもな猫撫で声に自分には聴こえたのだった。

ちなみに、ぼやっとしか知らないくせにこんなことを言うのもアレだがラッドウィンプスとか云う人の歌にも僕は同質の詐欺師性を感じるのだが、あれだとまだ手練手管の凄みには至ってないというか脇の甘さがかすかに感じられて、あれなら術中からの逃避を試みるにあたり、かろうじて付け入る余地のある気もするのだが。

完璧であればあるほどそれは本心じゃない、フェイクであり、お約束である、様式であり、決め台詞である。むしろありがたくて、それで心が救われるというのもわかる。最後まで詐欺師でいてくれてありがとう、そんな思いもわからなくはない。

で、このテレビの歌声の主は誰なのかと思ったら玉置浩二だった。なるほど…と思った。