神田駅を降りて、居酒屋の連なる繁華街の賑やかな様子を眺めながら歩いている。

歩く人、店の看板をじっと見つめる人、立っている客引きの人、テーブルの合間を行き交う店員、狭い席に向かい合う人々、店から出てすぐの場所に留まる集団、カウンター越しの対話、肩を寄せ合う客と客、人がひしめき合って、くっついたり離れたり、出て行ったり戻って来たり、入れ替わり立ち替わり、外側と内側がなしくずしで、めまぐるしく動き回ってる。

視線を戻すと、いきなり目の前が真っ暗になった。歩く地面の感触が変わった。もう一度あたりを見渡したが、真っ暗闇で何も見えない。目を開けても瞑っても同じ暗闇だった。

草むらの風に吹かれる音と、遠くに神田川の流れる音を聴いていた。少ししてようやく空と地面の色の違いが見分けられるようになった。見上げると、星と月が薄く夜空にちりばめられている。

とても静かな場所に一人で立っていた。いつから何を目指してこの場所を歩いていたのか上手く思い出せなかった。遠くに小さな灯りが見える。今夜はあの家を訪ねて一晩泊めてもらうしかないだろうと思った。