見た夢のディテールは、目覚めたと同時にうしなわれることがほとんどで、よしんばおぼえていたとしても、それを事細かく書き留めておいたからといって、それが何になるのか。あの幸福感や後ろ髪を引かれるような感じが書き留められないのだとしたら、何を書き連ねても無駄ではないか。

あの雑居ビルの、よその会社がおさまってるはずのフロアが、そうではなく複数フロアぶち抜きの巨大な日本庭園式の催事場になっていて、文楽の人形とか資料の類がピカピカのケースの中に展示されていただなんてはじめて知ったし、これから昼食をとりに駅周辺に向かうつもりで、僕ともう一人の誰かの二人連れ立ってらせん状に設置されたスロープを降りながら会場の出入口をたしかめている。もうすでにフロアは一階らしく、大きな窓の向こうに晴れ渡った空と水平線が見えた。静謐で無言の海がしずかに陽光をきらめかせている。

きっとこれで良かった、もう何も心配ない、夢はかなったという感触がたしかにあって、車の多い通りを急いで渡った我々は、その先にあるいつもの店で、やたらと光を反射するスプーンを掴んでカツカレーを食べ、そのあと来た道とは違う道から戻るために、土産物屋や乾物屋が雑多にひしめき合うガード下の人混みに揉まれつつ、その姿を消した。

こうして夢に置き去りにされて、きっとこれからも何度でもこの苦さと甘さの入り交じった失望を味わうのだ。