夜の散歩


真夜中に、コンビニでビールを買うつもりで外に出た。雨が上がってから間もないのだろうと思った。まだたっぷりと水分を含んだアスファルトの路面がぎらぎらと黒光りしていた。濡れた路面は黒い鏡面のようになって、ところどころに大きな水溜りも出来ていて、街灯や商店の看板やマンションの窓からこぼれる光や車のヘッドライトをくっきりと反射させていた。黒い部分のほとんどが白く光っていて、センターラインや横断歩道の白線の部分は逆に夜の黒い闇を反射させていて、まるで路面のネガポジが逆転しているかのような錯覚にさえ陥った。そのまま、コンビニとは別の方角の誰も居ない夜道を歩いた。台風の影響でひんやりとした風が絶えず吹いていて、それがとても快適だった。夜の人工的に設置された光はどれもこれも過剰に明るく、どこまで歩いても、夜の景色全体が、ナイターの野球場みたいに、おそろしく人工的に照らし出されていた。いつまでたっても、どこを見ても、すべてが明るく、暗闇に沈んでいる部分がおそらく一箇所もなく、誰も居らず車も通らない静けさに包まれた真夜中の道路では、信号の赤や黄色や青は単なるイルミネーションでしかなくて、路上にぼやっと無意味な青や赤の滲みを反射させているだけで、僕はさっきから道路の真ん中を歩き続けている。ごくたまに反対側から歩いてくる人も居るが、お互い目も合わさないし何事もないかのようにすれ違う。すれ違った後は、誰も居なくなってしまう。車はさっきからほとんど見かけない。しばらく行くと、ファミリーレストランがあって、外から窓ガラス越しに明るい店内の様子全部が丸見えに見えた。まばらに、数人の客が居た。店全体がとても孤独な感じで煌々と光っていた。その後、しばらく歩くと、また別の店の店内が見えた、と思った。しかしそれはよく見たらお店ではなくて普通の民家だった。普通の民家の普通のリビングらしい部屋で、カーテンを閉めてないので外から丸見えだった。かなり薄暗い暖色の照明の中で、一人の男が小さめの液晶モニタをじっとみつめていた。雑然とした感じの部屋だった。それを見ながら、なおも歩いた。またしばらく行くと、次第に霧雨が降り始めたようで、顔や腕がしっとりと濡れ始めた。