入口脇


入口脇の席に座って、注文した後で、文庫本を開いて読むと、見開いたページと、その本をもつ手の指先と、卓上と、座した自分の上半身や顔面や前髪のあたりに光のまぶしさが点在している。太陽の日差しが、店の窓の格子枠や、向かいに座っているおじさんの紙面をめくるたびにひらひらと揺らぐスポーツ新聞や、歩き回るひとの影などの、さまざまな遮蔽物によって、めまぐるしく日向と日陰の、真冬の晴天の透き通った光と影の、複雑なまだら模様を織り成していて、それがめくるめく様相を呈しているので、本を開いているのだが、字面ではなく光と影のまだら模様ばかり見ている。客は後から後からひっきりなしに入ってくるので、入り口の引き戸がガラッっと開けられるたびに冷たい風が吹き込んできて、そのたびに寒いよという顔でふりかえると、ほぼ同時にいらっしゃいませ奥へどうぞ、という静かな声が聞こえて、引き戸の内側と外側を踏み越えようとしていた客が、するするとスムーズに導かれていき、やがてふたたび引き戸は閉まる。戸が閉まっていると、開いていた時よりかすかにあたりが薄暗くなる。でも開いていると寒い。