頭の鉢


頭の鉢というのは、頭頂部位を中心にした頭蓋の上面部分一帯のことを言うのだそうだ。その面がとくに広いと、頭の鉢が云々…とか言うらしい。頭の皿という言葉と同意で、河童の皿に該当する部分のこと。はじめて知った。僕はそれまで、頭の鉢というのは、頭を何かの容器に例えた際の、うつわの周囲の部分の「感じ」のことだと思っていた。要するに天辺ではなくて側面というか、ぐるっと回った周囲の部分のことを鉢と呼ぶのだと持っていた。そう、頭をうつわに例えたときの印象のことだと。というか…もっと厳密には、頭の鉢、イコール、頭蓋骨全体のマッス感というか、あのスイカくらいある球体のごろっとした感じというか、周囲をタガではめたくなるような、あの、何とも知れない、やけに大げさに何かが詰まっていているようでもあり、同時にまったく滑稽なつまらない突起のふくらんで殻にくるまってるものが単にそこにあるようでもあり、目や鼻や口や、頬や、額や、耳や、顎や、歯や、髪の毛、髭、その他色々…または表情や、趣きや、吐息や、くしゃみや咳も…そんな事々をすべて乗せている、単なるバケツのような容器、両手のひらでぐいっと持ち上げて見る事もできるような、そんな簡単な大きさの、なんとも言葉にならないような不思議な感じの物質を称して、そう呼ぶのだと思っていた。でも単に頭蓋骨の上面部位のことだそうだ。今日、電車でドアの脇に立っていて、座席の端に座ってる髪の長い女性の頭が自分の腰のすぐ脇にあって、ああ人の頭って、なんて面白いものだとつくづく思った。頭の鉢がなあ、これはまさに、頭の鉢だ。ああこうして誰も彼もが、頭の鉢にご大層に何かを詰めたまま、寝たり起きたり、仕事したり、電車で居眠りしたりしてる、そういう不思議なごろっとした暖かい塊が僕のすぐ目の下にあるよと思った。