制服


 混雑した電車の、掴まることのできる吊革も手摺りもないまま、足を少し広げて、体重を両足に均等にかけて、揺れ動く床にバランスを崩されないようにしながら真っ直ぐな姿勢で立つようにする。


 二本の両足にスカートがまとわりつく。スカートを私の身体の一部のように思う。風にスカートの裾がはためくと、私は自分の身体の一部が風に溶けて消えかかっている感じを想像する。


 今年からこれを着なさいと言われて、その制服を着て学校へ通い始めて、もう一年が経つ。


 通い始めてほんの一ヶ月で、すっかり学校が嫌になったのに、この制服は嫌いじゃない。むしろ、着れば着るほど好きになる。


 この制服の、色がすきなのだ。着ているうちに、どんどん好きになった。この紺色が背景のさまざまな色と隣り合うのが、すごくきれいで、日差しにあたったり、風にそよぐ感じも、とても素敵だ。生地もすごくいいのだ。肌触りもすごくいい。この制服は着ているうちに何もかもが、どんどん良くなってきたのだ。私の身体を、上からぴったりと覆ってくれて、しっとりとした肌触りで、身体の線に沿って、ゆったりとした皺を幾本かはしらせる。駅のホームで、ベンチに座ったまま、その線の流れをうっとりしながら、じっと見てしまう。


 私はそもそも、洋服を自分で選ぶことの何が楽しいのか、よくわからない。今年の4月みたいに、もっと規則に決められた通りにしなさい、規則に従いなさいと言われたい。そして、今日からこれを着なさいと、きれいに折り畳まれた洋服を手渡されたい。


 言うとおりにしていると、きっと後で楽しくなる。そして心を静かに落ち着かせてくれる。それに私は、たぶん、大抵のものは上手く着こなす自信もあるのだ。


 イラつく事も多いし、すごく間違ってると思う事もあるし、色々なことで毎日怒ってるけど、それとは別に、やっぱりこれを着なさいと言われたら、その言葉の言うとおりにして、それで私は、そこからが大事だと思っている。


 来月か再来月には、忙しくなってきて、もっと色々言いつけられるだろうから、今は、まだこうしてのんびりしている時期だと思って、こんな風に文章を書いたりもするが、それも今のうちだけだ。忙しくなってきたら、そのとき私は、こんな文章なんかは、きっと、一文字も書かないだろう。そんな暇は、これっぽっちもない。そのときは、与えられた役割を完全にまっとうするために、全力よりももっと上の力を、全部出し切る勢いで、てんてこまいしながら、大いに頑張るだけだ。