西日暮里駅にはいったい、何百匹、何千匹のねずみいるのか気になる。人が、ぼんやり突っ立っているその背後を、当たり前のように、さささっと駆け抜けていく黒いかたまり。ねずみは、迫力がある。何か、見てはいけないものを見たような気になる。カラスとか、ゴキブリとかとは違う、もっと根本的にまがまがしい、忌まわしい、悪魔の側に属する、決して触れてはいけない禁忌の領域に属する、そういう生き物の感じがする。しかしそれが、あの西日暮里駅においては、とんでもな大胆さで、ホームのあちことを、人の足元を縫うようにして、縦横無尽に、得体の知れぬ、真っ黒な物体物自体が、うろちょろと走り回っている。いや、それは言い過ぎだ。さすがに人の足元までは来ない。しかし、ほんとうに背後をさささーっと走り去っていくのだ。なんというか、唖然としてしまう。よくある映画のワンシーンかと思ってしまうほどだ。さすがにねずみとは、仲良くできないだろうし、何せ、気持ち悪い。いたたまれないような気分になってくる。とはいえ為すすべなくきょろきょろして、どうにも、まず自分の衛生面保全と足元の厳重チェックと、いったいどうしてこんなことになってしまったのかの反芻に待ち時間を費やさざるを得ないが、ニ、三分で次の電車が来るから、それに乗り込む。人間以外のものが乗り込んでこないか、つい足元を見てしまう。それが見える前に、人に押されて、前後の背中や腹に密着する。すごく混んでいる。