友人の家には、トイレットペーパーの芯が大量にあるのだそうな。押入れ一杯に、トイレットペーパーの芯らしい。奥さんが取っておくのだそうだ。いやいやいや、これなんだよ、いくらなんでも普通は捨てるだろと。そう言うのだけど、捨てられないのだという。理由として、芯に、目と鼻と口が書いてあるやつがあって、それはその友人の、四歳か五歳の子供が書いたらしいのだが、それが書いてあると、捨てたらダメと子供が言うらしい。目と鼻と口、と言っても、適当に、サインペンかなんかで、いい加減でぶっきらぼうな、たてとよこの線だけで、それが顔だということらしく、もう、見た目としてほぼゴミなのに、それだけの理由で、夥しい量のトイレットペーパーの芯が、捨てられない。ほんとうに、どうでもいい、下らないクズなのに、それが家に大量に発生していて、困っているのだという。トイレットペーパーの芯じゃあ、あまり役にも立たないしね、と言うと、そうなんですよ、全然立たないですよ、という。子供にとっては、いったん顔が描かれたら、それはもう紙とか芯じゃなくて生き物だよね、と言ったら、まあだいたいそんな感じかもですね、と言う。せめて、サランラップの芯なら良かったのに。あれなら、けっこう硬いから、色々工作とかにも使えるでしょ?と言ったら、いやー、坂中さん、サランラップの芯も、じつはすでにウチ、大量にあるんですよ、と彼は悲痛の面持ちで言う。