最寄り駅に着いて、バスに乗ったら、車内をカナブンが飛び回っていて鬱陶しい。乗客皆が、飛んでる黒いものを見回している。全員から嫌がられているのに、カナブンは当然ながらお構いなしで、ぶんぶんとうなりながら目障りな感じで飛び回って、そのまま僕の肩に止まった。僕は次の停留所で降りるところだったので、仕方が無いのでそのまま降りようと思う。


バスを降りて、傘を挿して歩きはじめて、ふと肩を見るとカナブンはすでにいない。いつの間にかどこかへ飛んで行ったか、あるいはまだバス内に残ったのかもしれないと思う。バス内に残ったのだとしたら、残った乗客としては忌々しいだろう。一緒に降りればいいのに!お前だけ戻ってきやがって!


家に着いて、すぐシャワーを浴びた。頭から温水を浴びて、しばらくすると、どこかで聴いたような音がする。ふと下を見ると、さっきのカナブンが水流に逆らって、足元をジタバタとしているではないか。あ、お前、どこにいたのか?と思ったが、いま、頭を洗っているので、ちょっと待ちなさいと言って、虫をつまんで風呂の淵に乗せたが、バカなカナブンは羽を広げてぶーんと飛び上がって、適当にぶつかって、ふたたび床に落ちて、水流に流されそうになるので、だから、頭洗ってるんだから、ちょっと待ってなさいよ、と言って、ふたたび風呂の淵に乗せると、今度は大人しくしている。


身体を拭いた後、カナブンをつまんで窓を開けてベランダに放出した。外は台風だから大変だろうが、家に置くわけにはいかない。だから仕方がないのだ。どうかがんばって下さい。