柴咲友香「フルタイムライフ」、主人公視点と三人称視点が混ざり合いながら、関心が常に変わり見る対象や思うこともころころと移り変わる感じがよくわかる。するーっと読めてしまうので、地文も会話文もそれだけで出来てなくて互いに入れ子状になっているというか対話しながら目は別のところを見ていたり、誰かの声を聴きながら目の前の何かを見ている(その見ている先のことが、信じがたいほどどうでもいいことだったりする)ことに、なかなか気づきにくい。そのあまりの「普通さ」が、逆に驚くべきことだと思うが、しかし現実に生きているとはそういうことで、それが見事に文章化されていて、これは今や柴崎友香作品においてほぼ確定的な評価済みの特徴なのだろうと思うが、今更ながら僕もあらためてそれがわかった。
のんびりした、危機感のない会社、古い体質、旧態依然
生産性向上とかコスト管理とかは活発じゃない
たぶんわりと大企業、そこそこ安定した資本と売上高と取引先、全国にある工場と支社
音楽やってる人、カフェに集まる人々、若い人たち、自由業、自営業、無職、アートや音楽、デザイン
カフェでたまにいてなぜか惹かれてしまう謎の男
社内報、ボロイ社内冊子の編集も楽しいがクリエイティブっぽくないから同世代に引け目を感じる
製造業、機械、物理システムの魅力、工場好き
展示会、コンパニオンとか宴会のおじさん的世界
女性たちだけののんびりとした雰囲気、午後まったり、残業なし
テレビと通販、美味しいもの情報
よその会社の、ぜんぜん仕事してない感じ、バイトより全然楽そう。
派遣された女性の緊張感、世間を渡っていくためのキャリアとスキルを磨くこと
会社で働くということを書くということで、少なくともこれだけの要素が渾然となって、その他もっと細かく様々な断片も散りばめつつ小説が進んでいく。失恋や出会いもある。すごい、なんという強靭かつ正確なデッサン力だろうかと思う。