初対面のあなたは、まだ静止画のようなものだ、それが数日経って、緊張がほぐれてくると、表情はやわらかくほころんできて、仕草のバリエーションが増えてくる。話をしながら、顔を向けて、視線をさまよわせ、次の言葉を捜し、身体を揺すり、動かして、相手に届けようとして、架空の何かを指すための手振りが、あらわれるようになる。そのときにはじめて、わたしは、あなたの手の表情を知ることになる。爪の形や、指の長さ、手の表情、それを知ると、あなたの身体つき全部を知ったのと同じくらいの情報量を、私は受け取ったに等しい。また、あなたが笑ったときに、私ははじめて、あなたの口の中を、前歯のならびかたを見ることになる。それを知ると、私はやがてあなたに噛み砕かれて食べられてしまう、その覚悟を迫られたに等しい。あなたの存在がたしかなものになると同時に、それで当たり前になってしまう。静止画から退屈へと移行するまでの、ほんの短いひとときにおける出来事を見ている。