Love Jam

Zeppダイバーシティ東京ORIGINAL LOVE presents 「Love Jam vol.5」出演はオリジナル・ラブコーネリアス、中村佳穂。いずれのグループも僕はライブ初体験。最初は、この組合せのなんと脈絡なき不思議さよ…と思ったが、よく考えたら田島貴男小山田圭吾は似たような場所からほぼ同時に自らのキャリアを始めてるし、中村佳穂は若い才能に敏感な田島貴男が抜擢しても何ら不思議はないのであった。

最初に登場したのは予想に反してコーネリアスから。始まってすぐに「しまった…」と思ったのは、四人並んだ右端にいる大野由美子の姿が、自分の位置からではPAに隠れてまったく見えなかったこと。今更人混みをかきわけて移動するのも…と思って、その場から動かなかったけど、今日はある意味、大野由美子を肉眼で観るのが目的ではなかったのだっけ?とまで言うと、ちょっと言い過ぎだが、しかし若干心残りではあった。しかし本物の小山田圭吾もはじめてこの目で見たけど、思った以上に小柄でフェンダームスタングがサイズ的に身体にぴったり、そして不愛想で神経質そうな人という印象。それにしても何という、驚くほどにギター主体のサウンドであろうか。これだけ激しく弾かれて気持ちよく唸りを上げるギターサウンドは、今どきコーネリアスでしか聴けないのではなかろうか。古典的な道具を古典的なやり方で使っていて、しかしけしてギター主体のロック・バンド的ではなくて、ライブ感そのものが強く打ち出されるわけでもなくて、淡々と、しかしことさらミニマルぶってるわけでもなく、すごく普通にやるべきことをやってるだけ。これまでもコーネリアスのライブ音源や映像は何度も観て聴いてきたけど、いつでも寸分違わぬと言いたいような、いや、寸分違わぬわけではなくて、ほんの少しはやはり違う。が、その微細な違いがことさら聴きどころと思うわけでもない。コーネリアスはいつもこうで、よくわからないが、常にライブ演奏という行為への冷徹な批評意識が感じられるというか、この静止感覚をじっと受け止め続けることを求められているような感じがある。そして「夢の中で(In a Dream)」がはじまると、僕の中にはなぜか思わずこみ上げてくるものがある。

続いて中村佳穂バンド。かなり直球な印象を受ける新曲が最初に披露されて、ゆるめの雑談みたいなMCで客に向かって話す、しかしその喋りが、じょじょに再びリズムを形作り、目を見張るような即興につながっていくという、この流れもこれまでYoutube映像や音などで何度となく聴いてきた中村佳穂独自な、はじまりの掴みのパターン。歌とも語りともラップとも言えない独自な歌い方。吐息や笑声までリズムを刻んでいるかのようで、終始朗らかで、楽し気で、リラックス感が満ちているようだが、じつはすべてが完璧に音楽として統制されてる感じ。ある意味息詰まるほど生真面目で神経症的でもある、一人の突出したパーソナリティを、残りのメンバーがガッシリと支えている。音楽的な強さも凄いが、中村佳穂のこの私的世界な強さもかなり濃い。いずれにせよ今日もこの会場で、また沢山の聴衆が、この女性の音楽に驚愕し、衝撃を受けたことだろう。いま、衝撃という言葉に値する稀有な音楽家だろうと思う。たぶんこの先、もっと有名になっていくのだろう。一時間の短めセットだったせいで、どの曲も長尺にならず"LINDY"などふつうに演奏され、それもそれとして良かった。

トリはオリジナル・ラブ。僕はこれまでオリジナル・ラブの音楽をきちんと聴いたことがなくて、今回は完全にゲストの前二組が目的でこの会場に来た客なのだが、はじめて体験したオリジナル・ラブは、実に手堅く、掴みどころを心得た、ベテラン的安定感に満ちた、堂々たるパフォーマンスに感じた。なにしろ前二組が一筋縄では行かぬ感じなので、最後にこれだけややこしさ皆無にリズムとグルーヴ感に身をゆだねられこころを開放できるというのは、じつに気分よくリラックスできて爽快だった。曲が良いしバンドが良いし(ギターは木暮晋也)演奏もタイトでカッコいい、しかし田島貴男は、今更ながら、ほんとうにすばらしい。三十年以上、これを続けているのだ。ノリノリで身体を揺すり、ステージの先端で客を煽る姿の、ほとんど滑稽紙一重の神々しさ。中年を過ぎたミュージシャンの、いろんな意味を含んだ圧倒的な存在感、ほとんど倫理的正しさと言っても良いかもしれない。冗談抜きで、笑いを堪える気持ちと感動する気持ちが混ざり合った。きっと大昔の大御所の今や伝説と化したソウル・シンガーの歴々も、今観ているこれと同じように、やはりステージで客を煽っていたはずなのだ。その当時と今ここと、おそらく違いは無いのだ。滑稽さや寄る辺なさも含めて、それらのことが一瞬で確信されたような気がした。それがつまるところ歴史ありということなのか。

中村佳穂や小山田圭吾との共演もあり、とくに田島貴男小山田圭吾との共演は、往年のファンには驚きだったらしい。僕は若い頃「渋谷系」にまるで触れないまま、今に至るので、そのあたりの機微はわからないのだが…。もちろん会場は、いい感じに年齢層高めで、我々もいい感じに馴染んでいたと思う。