七草粥

七草粥は、妻が毎年作ってくれるのだが、ああ、あれか。あれはたしかに、春の香りと味わいを感じさせる、この時季に思いを馳せるに絶妙な風味の食物である、と理屈ではわかるのだが、それにしてもあれは、いざ食べてみると、少しばかり味気ないというか、ごはんにほんの少し雑草と土が混入してしまったみたいな、それを仕方なく食べてるみたいな、考えようによってはそんな風にも感じられなくもない、いやそう感じてしまっている自分を、我ながら雑で大味で大雑把な人間だとは感じるし、ふだん香りの呼び起こす記憶がどうとかこうとか、繊細ぶって偉そうなことをここに書いたりもするくせに、七草粥は味気なくてつまらないとか、どの口が云うのかと呆れる思いだが…しかしそう感じてしまうものは仕方がない。ので、帰りにスーパーに寄って塩鮭を一切れ買い求めた。これを焼いて付け合わせれば塩梅がよかろうと思ったのだ。

塩鮭。たしかに良かった。でもなにも塩鮭じゃなくても、梅干しだけでも充分に美味しかったし、白菜の浅漬けもあってこれも美味しかった。七草粥だけでも、あのかすかな塩の効きが、米と春の草の味わいにそっと寄り添うようで、それはこれで、じつに味わい深いじゃないか、ああやっぱりこの時季は、七草粥にかぎるね、まったくたまらないね、と嬉しくなって、ひとしきり騒いだ。