夜を走る

会社を出て横浜駅へ向かったがデパートはどこも休館していたので、駅から少し歩いた先のスーパーで赤白ワイン各一本ずつ買った。ただしこのままではコルクを抜くことができない。安いソムリエナイフもワイングラスも酒と一緒に買うつもりだったのだが、そのスーパーの食品売り場にはそんなものはおろか栓抜きさえ売ってなかったし、周辺のコンビニにも見当たらない。仕方ないのでテイクアウトを予約しておいた馬車道のお店に行って品物を受け取って「お願いがあるんですけど!」と買ったワインを差し出してその場で開栓してもらった。二本とも開けちゃっていいですか?と聞かれて、もちろんとこたえる。さすがに今夜中に二本を飲み干すわけではないけど、ここで開けてくれなければこの後どうしようもない。

 

ホテルの部屋に戻って一人夕食。部屋に備え付けの、歯磨きに使うようなコップでワインを飲まなければいけないところが虚しいのだが、まあ良しとしよう、俄か準備としては上出来であるとしよう。今やどの店もほとんどが通常営業ではなくテイクアウト品の販売を主とした営業に切り替えていて、普段まずそんなことはしないお店の料理をお持ち帰りできるというのは、考えようによっては貴重な機会である。オードブル詰め合わせもラザーニャも「さあ酒を飲め!」と強く訴えかけてくるような塩と香りがすばらしい。しかし思いのほか量が多かった。残りは明日の昼に会社で食べるとしても、それでもまだ残りそうな気もする。

 

ホテル泊まりでいちばんつまらないのは、音楽をちゃんとしたスピーカーで聴けないことで、さすがに外付けスピーカーを持参する気はないが、イヤホンを耳にあてがうのも面倒くさい。とはいえiPadのボリュームを最大に近く上げると、昔のラジカセ程度にはちゃんとした音がするのだから最近はすごい。

 

食事が済むと、自宅と違ってなにしろ夜の時間が長くありあまっていて、狭い部屋のなかでジッとしているのも気が塞ぐので、また夜の散歩に出かけようと部屋を出た。と言っても徒歩ではなくて30分150円のレンタルサイクルを借りて、久々にぐいぐいとペダルを漕いで夜の街中を滑空するような気持で走った。バッテリーが積んであってアシスト機能が効くので、疲労感はほぼなくて爽快感だけがある(バッテリーが切れてると地獄だ。もっともその方が運動にはなるだろうが)。

 

自転車のスピードはじつにすばらしい。夜の空気はさらさらとなめらかで、あらゆる景色が一気に後ろへすっ飛んでいく。すべてを置き去りにして、すべてから逃避して、まったく新たな未知の場所へ向かっているかのようだ。みなとみらい、桜木町、関内を経て、ぐるっと一周して帰ってきた。一時間ばかり走り回っていたようだ。

 

今日で宿泊二日目。早くもそろそろ飽きてきたかも。大人しく読書でもしようか。

 

見上げると、巨大な月。