食べたくなる本

三浦哲哉「食べたくなる本」が、とても面白い。主に料理書およびそれを著した料理研究家について書かれた本で、90年代から今にいたるまでの、家庭での料理がどのように変遷していき、何が受け入れられ、何が忘れられていったのかを辿りつつ、それらの料理本を参考にしてきた著者自らが、若い頃から今にいたるまで、実生活を基盤してどのような社会的、世代的、環境的立場で、どのように食を捉えてきたのかをふりかえって考察するという感じで「食」をテーマにした本としてはすごく読み応えがある。

「食」をテーマにした本の場合、それはどうしても著者自身の「自分語り」に近づく傾向があって、その人が何を食べてどう感じたかは、その味というよりもその人を表現してしまいがちだし、「食は三代」の言葉もあるように、その美味をわかっている=目利きであり、昔から良いものを知ってる、といった書き手の自己肯定にかたむくのを避けがたいところがあるが、本書は著者が愛好する「料理書」を対象にした批評であり、「食」語りの厄介さも含めた面白さ、料理研究家という肩書をもつ人たちの「書き手」としての面白味を、ひとつひとつ丁寧に並べて紹介していき、読んでいる側は彼ら彼女らの一癖も二癖もあるような強烈な個性に驚き呆れ笑いながら、著者自身のスムーズな文体に乗っかって楽しく読み進むことができる。

加えて著者本人がなぜ「食」にひかれ「料理書」を愛好するのか、「食」を考えている自分は何者なのかというところをも内容に含み込むところが、本書の批評としての面白さになっていると思う。