横浜駅のみなみ西口改札から入ると、上りと下りの階段のあいだに通路が二百メートルくらい先まで続いていて、おそらく中央改札方面までつながったのかと思われるが、ある日突然、という感じでこの通路が現れたのは、たしか先月あたりのことだったか。それまで階段と階段のあいだでしかなかった、まるで意識にのぼることもなかった領域に、いきなり奥行きというか、いきなりトンネルが開通して、もう一つの世界が出現したかのような、隠し扉を開けたらその向こうに広大な地下通路が広がっていたみたいな、あるいは大きな鏡が壁に掛かっていて、そこに映りこんだ鏡像がまるで実際の景色に見えるような非現実感を思い起こさせる。はじめて見たときはほんとうに一瞬、鏡像か巨大な写真が貼られているのかと思った。つまり、あれを見た僕はまだそれをじっさいに奥行きだと認識できてない。もちろんそこへ足を踏み入れたことも今のところない。