日本映画専門チャンネルで深田晃司「よこがお」(2019年)を観る。甥が少女誘拐の罪で逮捕され、叔母の主人公も加害者の親族として世間から糾弾され生活や将来が崩壊していく、その過程の描写はやや図式的過ぎるし見ていて楽しいものでもないので、ちょっと微妙かな…などと最初のうちは思っていたのだが、おそらくは別時系の出来事であろう美容師の男との関係、あるいは主人公が隠す謎の企み挙動あるいは狂気の気配が、主軸となる時間軸と脈絡なく平行して描かれることで、その一見つながらない導線の謎に引っ張られていくうちに、最後はなるほどと納得させられる、結果的には面白かったと思う。(まったく別種の映画でありながら、今泉力哉「愛がなんだ」のラストを思い出させた。かすかな共有というか求めるテーマが一瞬交差したように思えた。)主人公を演じる筒井真理子がすばらしかった。夜が明けた翌朝、とつぜん「犬」になって、四つん這いで近所を徘徊するシーンは、近年自分が観て記憶にある映画のイメージのなかでも突出したインパクトと言って過言ではない、まさに全身が総毛立つような禍々しい恐怖をおぼえた場面だった。
つづけて深田晃司「東京人間喜劇」(2008年)を観る。三つの断章に分かれた作品で、各物語に直接のつながりはないが、一部の登場人物が地続きで登場する、いわばある街のどこか狭い範囲内で偶然あるいは連鎖的に生じた三つのエピソード、といった体裁を取っている。とはいえ、脚本的に工夫されているとか貼り巡らされた伏線が周到に回収されるとか、そういうことではない。話はかなり奔放というか思いつきで進んでいるような印象がある。二時間半もあるのだが、なるほどこういう撮り方なら映画は長くなるだろうな…と思うような雰囲気がある。舞踏の公演会場で偶然知り合った二人の女性が、レストランで食事したのち、さっき観た舞踏家のサインをもらうために、雨降る夜の街をうろうろ徘徊する最初のエピソードは、ことのほかとりとめない感じだったけど、けっこう面白かった。二つ目と三つ目は、まあまあかな、と思った。三つ目の最後にエピソードとして、一つ目の要素がやや強引かつそんなのアリか?という感じで入ってきて、まあ、それは無くても良かったんじゃないかな…とも思ったが。