なんでもない日

四月になったから、電車にも駅にも人が増えた。会社の前に待ち合わせの人々がたくさん。緊張している人もいるだろうし、これからの日々を想像して、期待に胸をふくらませている人もいれば、鼓動を高鳴らせている人もいれば、絶望してたり、すでに年貢を納めた気であったり、虚無にとらわれてたり、うんざりな思いの人もいることだろう。そういう人たちがいるであろうと気づかされるのが今日で、そうでもなければ、べつに今日も、いつもと変わらないただの日だ。ただの日であるはずだが、誰かにとっては、たぶん今日は特別なのだ。電車にも駅にも学校にも会社にも、今日を特別だと感じている誰かがいるのは間違いない。桜は毎年咲くので、それはすでに見慣れた景色だが、それをうつくしいと思ってる人がいる。桜を生まれてはじめて見る人は稀だろうが、ほとんど生まれてはじめて見たのと同じくらいの驚きでそれを感じ取っている人も、いなくはないだろう。まるで今日はじめてここに生まれたかのような、そういう人もなかにはいるのだと想像できるのが、この四月という時期のこと。