目を覚ますと、乗客の少なくなった電車内には朝の光が降り注いでいて、目の前を柔らかい布が、クラゲのようにひらひらと揺れているのが見えた。それは前に立っている女性の長いスカートだ。換気のために窓が少しあいた、少し肌寒いくらいの車内には、明滅しながら飛び込んでくる光と影がさわがしいほどで、その光を透かして揺れ動く薄いベールのようになったスカートが、半分目を開けた自分の視界をほとんど遮えぎっている。半分だけ覚醒した意識が、明るさと肌に触れる風だけを感知している。薄くて柔らかい布の動きが、また夏がくるということを思い出させているのだなと思う。