笑い声

駅の改札を出て、人でごったがえしているなかを抜けて通りへ出ようとしていた自分の前方に、大柄な、やや強面風のおじさんとその奥さんらしき女性が、遠くを見ながらしきりに手を振っていて、たぶん花見か何かの相手と待ち合わせでもしてるのだろうと思ってその様子を脇目で見ていると、自分の背後から小さな男の子が、自分を追い越してすごい勢いでそのおじさんに向かって走り寄っていき、ほとんどぶつかるかのようにして、広げられた両腕のなかへ飛び込んでいった。おじさんはその子をガッシリとキャッチして、高く抱き上げて、その男の子の小さな身体はふわっと浮かび上がり、ずいぶん高くまで持ち上げられて、またおじさんの胸へとゆっくり下がっていった。その一連の動きの間中、おじさんの野太くて高らかな「わは!わははは!はははは!ははわはは!」という笑い声が自分の耳に響き渡っていた。

あんなおっさんが、あんな風な声で笑うこともあるのだな…と、その場を通り過ぎつつ、ぼんやりと考えつつ、今見たものを反芻していると、なぜかいきなり、奇妙で得体の知れぬ、不意打ちのような感動におそわれた。それは一瞬のことだったがずいぶん激しく、背中から足の爪先にかけて電流を走らせたように自分の身体を貫き、感極まった顔面が痛いほど紅潮して、歩きながらしばし全感覚がオーバーフローしていた。