兄弟

「わたしの見ている世界が全て」の、彼らの実家の風情がとても良かった。この家は手前に生活雑貨売り場があって、奥に食堂の席が並んでいて、脇には厨房の出入口がある。お店構えは微妙で、一見どこが店の入り口かわからないけど、立て看板や張り紙のある、他人の家の庭先へ続きそうな奥まったところに入り口がある。店名もフード…何とかいう、かなり微妙な感じで、何というか、きちんとカッコつけた、しゃんとした感じのお店というよりも、長年やってきて悪く言えば惰性的な、常連はそこが店だとわかってるから来るだけの、ただ引き続いてきただけという感じお店であること、そういう時間の堆積感が感じられる。

兄弟って、色々だよなと思う。僕は妹が一人いるけど、それだと二者関係のみだけど、三者、四者になるなら、それは相当に色々あるのだろうな…と思う。

彼ら兄弟が食事をするときは、家のなかで食卓を囲むわけではなく、店の客席にそれぞれ適当に座る。皆がバラバラな方角を向いて、勝手に食事をするのだ。ただし一つのテーブルで皆がすき焼きの鍋を囲んでいた日もあった。そういうこともある。

一度だけ出てくる長男の寝室は、とても狭くて散らかっている。皆が集まってる店の奥のガラス戸を開けるとすぐにその部屋がある。けっこう間取りや部屋数も多そうに見えなくもないのだが、家の全構造がどうなっているのかは、よくわからない。次兄の部屋もどこにあるのかは不明。姉の寝室は出てこなくて、家の外とも内とも言えないような、勝手口からちょっと外に出たという感じの中間地帯---たとえばそこに商品の在庫とか雑多な荷物が置かれるような---に置かれた簡素な椅子に坐って、ぼんやりとタバコを吹かせたり、缶ビールを飲んだりしている。

主人公の子はそんな家に戻ってきてから、ひとまずは次兄の部屋に仕切りを立てて寝起きする。このことからも、この家に余った部屋はないのだろうと想像されるけど、とにかく彼ら彼女らは、家の中にしっかりと住んでいるという感じが希薄で、お店の中にいたり、軒先の日影になった場所に寄り掛かっていたり、誰もが家の周囲にくっついて暮らしてるという感じがある。というか、家である要素と店である要素(家族であるような、たまたま居合わせた他人であるような…)が、半々くらいの感じがある。