低温調理

先月入手した低温調理器は、まだ牛もも肉を調理するために一回使っただけ。

容器内のお湯を任意の温度に保ち、袋内の食物を数時間のあいだ沈めてじっくりと加熱する。べつに根気さえあればふつうのガス台で鍋に火をかけて水温計見ながらこまめにガスの火加減を調整しても同じことだが、さすがに何時間もそれを続けるには大変である。

たぶん昔ながらのちゃんとしたレストランの厨房では、今でもそうやって肉に火を入れたりしてるのか、あるいはそんな面倒くさいことする店はもはや少数派なのかもしれないが、使って見ればなるほど便利なものだなと思うし、まあ火で加熱するだけでは、さすがにここまできれいな仕上がりにはならないだろうとも思う。それはそうなのだが、そもそも他にどんな料理が可能なのかを、あまりわかってない。このままだと牛肉専門の調理器になる可能性大だ。まあそれならそれでいいか。

ところで水温50℃とか60℃と言えば、三十年ほど昔にまだ白黒フィルムで自ら写真を現像していた時代を思い出してしまう。暗室作業時、現像液はたしか50℃に保つ必要があるのだが、そんなことはまず無理で、作業を続けるうちにどうしても水温が下がっていく。そうするとプリントの仕上がりも変わってしまうわけだが、そんなに厳密な水温管理なんて一度もやらなかった。ものすごくどんぶり勘定な、一発勝負なやり方しかしてなかったなと思う。もちろんそれで良かったというか、ある程度ラフでランダムな結果こそ求めていたし、偶然まぐれで超絶美しく仕上がったときは、すごく感動的だったりしたものだが。しかし料理となるとそうも行かない。まずは決まった手順を順守し、およそ共通理解の範囲内に収めねばならない。